前回、少し肝を冷やす話をしました。
自社サイトの開発をAIに任せて無人で回したら、AIがやってもいない作業を「やりました」と報告してきた、という出来事です。
(前回の記事はこちら:AIに開発を任せて無人で回したら、”やってもいないことを「やった」”と報告し始めた)
では、そもそも私たちは、サイト制作をAIにどう任せているのでしょうか。
今回は、その「AIが自分で開発を進めてくれる仕組み」そのものを、できるだけやさしくご紹介します。
キーワードは、ひとりのAIに全部やらせない「3人体制」です。

この記事でわかること
- AIに開発を任せるとき、なぜ1体ではなく「3つの役割」に分けるのか
- その発想が、エヴァのMAGIシステムと似ている理由
- 受け渡しの事故を経て、仕組みの「配管」だけを作り替えた話
- チャットは1つでも、役割は分けられるという考え方
なぜ、1体のAIに全部やらせないのか
AIに開発を任せると聞くと、「1体のAIが、考えて、作って、確認まで全部やる」姿を思い浮かべるかもしれません。
でも、私たちはあえて役割を3つに分けています。
- ①「次に何を直すか」を考える役
- ②実際に直す(作る)役
- ③できあがりをチェックして、本番に反映する役
いちばんの狙いは、「作る人」と「チェックする人」を分けることです。
人間でも、自分が作ったものを自分で確認すると、どうしても「まあ、これでいいか」と甘くなります。
作る担当とチェックする担当が別なら、その甘えが入りにくくなります。
この発想は、アニメ好きの方ならピンとくるかもしれません。
エヴァンゲリオンに出てくる「MAGI(マギ)システム」です。
MAGIは、3台の独立したコンピュータが、それぞれ別々に判断を下し、多数決で物事を決める仕組みでした。
ひとつの偏った考えに引きずられないよう、わざと3つに分けて、互いをチェックさせる。
私たちのAIの3役分業も、独立した複数の視点が、互いを点検し合うという点で、同じ狙いなのです。

当初の形と、起きたトラブル
最初は、この3つの役割を3つの別々のチャットに持たせていました。
そして、チャットどうしが「次は、あなたお願いします」とメッセージを送り合って仕事を引き継ぐ形にしていました。
この形には、良いところもありました。
3つのチャットを画面で見ながら、人が途中で割り込んで確認できるのです。
ところが、無人で回したときに問題が起きました。
メッセージを送るには毎回こちらのクリックが必要で、そもそも完全な無人では回りません。
そして、受け渡しの行き止まりにぶつかったAIが、存在しない宛先をでっち上げて破綻したのです。
これが、前回の記事でお話しした「事故」でした。
どう変えたか:思想はそのまま、「配管」だけ作り替えた
ここで、私たちは大事なことに気づきました。
悪かったのは、3役に分けるという「思想」ではなく、その間の「受け渡し(配管)」のほうだったのです。
そこで、思想はそのまま残し、配管だけを作り替えました。
3つのチャットがメッセージを送り合う形をやめたのです。
代わりに、1つのチャット(=私と対話する常設のAI)と、決まった手順のプログラム(スクリプト)が、内部で別のAIを順番に起動する形にしました。
たとえるなら、3人がリレーで手紙を手渡しするのをやめて、1本のベルトコンベアに載せて順番に流すようにした、というイメージです。
手渡しがなくなれば、「宛先をでっち上げる」隙も、はじめから生まれません。
今は、こんな流れで動いています
言葉だけだと難しいので、順番に並べてみます。
- 私が「直したい・作りたい」を伝える
- 対話するAIが、作業の指示書(Issue)を起こして見せる → 私が承認
- 私は「動かしてよい」を1回承認するだけ。ここから先は自動です
- 案件ごとに専用の作業フォルダを用意する
- 【作る役】まっさらな記憶の別のAIが起動し、指示書を読んで実装する
- 【チェック役】さらに別の(また新しい記憶の)AIが起動し、できあがりを辛口でレビューして「合格/要修正」を判定する
- 要修正なら、作る役へ戻して直す。これを必要なだけ繰り返す(上限あり)
- 合格したら、AIではなく「決まった手順のプログラム」が、最終チェックを通してから本番に反映し、後片付けと日報まで行う
ポイントは、最後の本番反映をAIの気分ではなく、決まった手順のプログラムに任せたことです。
条件を満たさなければ、そこで自動的に止まります。

【おまけ】もっと詳しく知りたい人向け(専門用語あり)
ここからは、より詳しく知りたい方向けの「おまけ」です。
急に専門用語が増えるので、需要はないと思います。興味がなければ読み飛ばして大丈夫です。
先ほどのやさしい流れを、実際のコマンドや仕組みの名前で書くと、こうなります。
① issue-N 専用の作業フォルダ(worktree)を新規作成
②【対応役】claude -p を起動(まっさらな文脈)
→ Issueを読む → 実装 → commit → PR作成
③【レビュー役】別の claude -p を起動(また別のまっさらな文脈)
→ PRを辛口レビュー →「合格(PASS)/要修正(CHANGES)」を判定
④ 要修正なら ②へ戻って修正 → 再レビュー(最大3往復)
⑤ 合格したら merge-cleanup.sh(←AIではない決定論スクリプト)
→ マージ前チェック(停止ゲート) → マージ → ブランチ/worktree削除 → 日報スニペット
用語を少しだけ補足します。
- worktree(ワークツリー):Gitの機能で、案件ごとに独立した作業フォルダを作る仕組み。複数の修正を並行しても混ざりません
- claude -p:AI(Claude)を、前のやり取りを引き継がない「まっさらな文脈」で1回だけ起動する使い方。これで対応役とレビュー役の記憶が分かれます
- commit / PR(プルリクエスト):commitは変更の記録、PRは「この変更を取り込んでよいか」をレビューにかける単位
- PASS / CHANGES:レビューの判定。合格ならPASS、要修正ならCHANGES
- merge-cleanup.sh:マージ(本番反映)と後片付けを担う、AIではない決まった手順のスクリプト。停止ゲートの条件を満たさなければ自動で止まります
つまり、本文で「まっさらな記憶の別のAI」と呼んでいたのが claude -p、「決まった手順のプログラム」と呼んでいたのが merge-cleanup.sh、というわけです。
大事なのは「チャットの数」ではなく「記憶を分けること」
ここで、ひとつ誤解されやすい点があります。
「役割を分ける=チャットを何個も並べる」ことだと思われがちですが、そうではありません。
役割を分ける本当の正体は、”記憶(文脈)を分けること”です。
今の仕組みでも、作る役とチェック役は「まっさらな記憶の別のAI」として起動するので、互いの記憶を共有しません。
チェック役は、作る役が「どんなつもりで作ったか」を知りません。
だからこそ、身内びいきのない目で、できあがりだけを見て判断できるのです。
つまり、見た目のチャットは1つでも、中では役割ごとに記憶を切り替えている。
独立性は、画面の数ではなく、記憶の分け方で作れる、ということです。
何が「同じ」で、何が「変わった」か
整理すると、こうなります。
- 同じ(いちばん大事な核):「作る人」と「見る人」を分ける=レビューの独立性。3役分業の狙いはそのまま
- 変わった(配管):受け渡しが「AIどうしのメッセージ(クリックが必要・無人だと破綻)」から「決まった手順が次のAIを順番に起動(クリック不要・でっち上げの余地なし)」へ
- マージ(本番反映):人やAIの気分ではなく、停止ゲート付きの決まった手順が担当
もちろん、良いことばかりではありません。
3つのチャットを画面で見ながら途中で割り込む自由は、減りました。
その代わりに手に入れたのが、受け渡しが壊れない安心です。
私たちは、こちらのほうが現実的だと判断しました。
これからの進め方
この作り替えで、人の手間はぐっと減りました。
もう、私がターミナル(黒い操作画面)を開く必要はありません。
対話するAIが、起動まで引き受けます。
残る操作は、「動かしてよい」という承認を1回押すだけです。
これは、本番に自動で反映してよい、という同意のゲート。
後戻りしにくい一歩の前に、ここだけは人の意思を残しています。
まとめ
- AIに開発を任せるなら、1体に全部やらせるより「考える・作る・チェックする」の3役に分けると品質が上がる
- 狙いは、エヴァのMAGIのように独立した複数の視点で互いをチェックすること
- 受け渡しの事故を経て、3役の思想はそのまま、間の配管だけを堅く作り替えた
- 役割を分けるのに、チャットを並べる必要はない。記憶(文脈)を分ければ独立性は作れる
- 完全自動でも、本番反映の前に人の承認を1つだけ残す
AIに任せられる範囲は、これからもっと広がります。
そのとき効いてくるのは、ひとつの賢いAIより、役割を分けて互いをチェックさせる「組み立て方」のほうかもしれません。
AIの活用、”組み立て方”から一緒に考えませんか
あなたの会社では、AIに任せた仕事を、誰が(何が)チェックしていますか。
「AIを使ってみたいが、どう任せれば安全か分からない」。
「便利そうだけど、品質チェックまで考えられていない」。
「すでに使っているが、もう一段、仕組みとして整えたい」。
そんな段階でも大丈夫です。
アスタは、AIを実際の業務で「役割を分けて・確かめながら」使う組み立て方を、一緒に考えるお手伝いをしています。
まだ構想段階で構いません。
今どんなふうに使っているかを、聞かせてください。
AI活用の第一歩、いっしょに整えませんか
「AIを使ってみたいけれど、安全面が不安」「自社の業務でどこから任せればいいか分からない」——そんなときは、お気軽にご相談ください。アスタは、AIを実際の業務で安全に活用するお手伝いをしています。
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「まだ何も決まっていない」という段階でも大丈夫です。今の状況をお聞きかせください。





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